在宅介護の限界を何度か感じたことはありますが、その中の1つに正社員になれなかったことがあります。
私は30代前半から認知症祖母の在宅介護を6年間ほぼ1人で経験したので、時間的、精神的、肉体的に余裕がありませんでした。
メディアや著名人から一般人にいたるまで「働きながら介護ができる」、「無理せず介護しよう」というような表現でテレビ、新聞、書籍に伝えている人がいますが、在宅介護は環境によって全く異なります。
そこで、今回は「正社員になれないのはどういう場合か?」体験談を元に書いていきます。
「協力者がいない場合正社員で働くことは不可能」
在宅介護をする前、私は東証一部のテレビ局・固定電話・携帯電話などの放送・通信商材を請け負うコールセンターで営業や顧客対応の仕事をしていました。
業務内容はアウトバウンド(発信)とインバウンド(受信)業務両方、部下の指導、顧客先へのクレーム対応などを担当し、将来はコールセンター全体の運営責任者、マネージャーなど管理者を志したいと思っていました。
ですが、6年前のある日突然母親が脳梗塞で倒れ、祖母が認知症初期の状態、私には兄弟が3人いますが、弟と妹は結婚し家庭をもっているので協力が難しく・・・。
母親はしばらくして回復しましたが、元々大腸ガンや咽頭ガンなど大きな病を何度も患っているため無理はできず祖母との相性もいまいちでした。
周囲の友達からは「あんたの人生があるし、施設入所しかないでしょ」と言われました。
何年在宅介護するか、仕事のブランク期間はどれぐらいになるか、老後の年金受給額が減るかも、結婚できないかも、子供を親や祖母にみせられないかも、そんな不安や葛藤を抱きながら。
それでも「祖母を介護したい」と思いました。
認知症以外は元気で母親のように育ててくれた祖母を老人ホームに入れるなんて考えられないじゃないですか・・・。
祖母が自宅で転倒打撲し要介護が2から4に上がる介護3年目までは、週2回朝9時~夕方位までデイサービス、週2回30分程度ヘルパーが買い物、掃除、介護施設に行く準備、月2泊3日ショートステイを利用。
すなわち、私は上記の時間を除く月2泊3日のショートステイ以外は夜間1人、週2回のデイサービスと週2回30分のヘルパー以外の週5回は日中も1人で在宅介護をしていました。
デイサービスの日は送りだしてから2~3時間昼寝し、祖母が帰宅する16時前までに夕食やオムツなど日用品の買い物をすませたり、掃除をしたり・・・。
祖母が帰宅すると、話を聞いたりオムツを替えたりテレビをみながら一緒に夕食を食べたり、夜間は「腹へった、飯食わせ」と笑いながら2時間に1回ぐらい起きてくるので、間食させたり。
終日在宅の日は日中天気がいい日は散歩したり、喫茶店でお茶を飲んだり、買い物したり極力外に連れ出していました。

祖母とは時々ケンカをしました。
例えば、認知症が徐々に進行し、お金の管理が難しくなり1日で年金を全部使ってしまうことがたびたびありました。
「ばあちゃん俺がお金預かって渡すから。1日で全部使ってしまったらあかんやろ?」と私が言うと、「私のお金なの、ほっといて。あんたは私のお金とろうとするの?泥棒って警察に言うで」と返してきて。
私はついカッとなり口調が激しくなり、「もう勝手にせえや」と言うと、「あんたばかりごめんな、でもなあんたしか頼みがいないのよ」と言ってくれることがありました。
そして、私には6年交際中で遠距離の彼女がいますが「この経験は必ずあなたにプラスになる時がくるからもう少しがんばろ、ギブアップという時は私が声をかけるから」とよく優しく声をかけてくれました。
その度に「よし、もう少しがんばろ」と。
そして、介護3年目のある日、祖母が自宅で転倒・打撲し入院2週間で寝たきりになり、要介護度が2から4に上がりました。
介護3年目から6年目までは、介護保険内で利用可能な介護サービスの上限が増え目一杯利用し、母親が週1~週2回で少しずつ介護に参加するようになりました。具体的なスケジュールは下記の通りです。
- 月曜:デイサービス後夕方から翌朝在宅
- 火曜:午前中1時間訪問看護他在宅
- 水曜: デイサービス後夕方から翌朝在宅
- 木曜、金曜:ショートステイかお泊まりデイ利用
- 土曜:ショートステイかお泊まりデイ夕方頃帰宅後在宅
- 日曜:終日在宅
- 母親介護参加日:火曜泊まり、水曜のデイサービスに行く直前、日曜の日中
母親が参加するようになったとはいえ、要介護度が上がり私の負担は増しました。
足腰が弱り転倒しないよう見守ったり、徘徊の付き添いをしたり、トイレの仕方を忘れたり、夜中はベッドで尿をもらしたり、部屋を散らかして片づけたり、食べたことを忘れ毎日起きてきたり・・・。
協力者なしはもちろんのこと協力者がいても参加具合によっては、正社員で働くことは困難です。
「自己負担額内で介護サービスを利用する必要がある」
そして、介護サービスは毎月1割(所得によっては2割)でうけられる金額に限りがあります。
要介護度は要支援1から要介護5まで7段階あり、支給上限額は下記の通り(自己負担額は1~3割)。
- 要支援1 50030円
- 要支援2 104730円
- 要介護1 166920円
- 要介護2 196160円
- 要介護3 269310円
- 要介護4 308060円
- 要介護5 360650円
ご覧のように介護度によって介護サービスを利用できる金額にかなり開きがあることがお分かりいただけると思います。
このように上限が決まっており、1円でもはみ出すと10割負担になりますので、毎月ケアマネージャーに相談しながら施設の利用を決めて下さい。
祖母は介護3年目までは要介護2でしたので月19万6160円分、介護3年目以降、要介護4になってからは月30万8060円分の介護サービスをほぼ目一杯利用しました。
それでも、要介護2の時で月2泊以外、要介護4の時で週4日在宅介護が必要でしたので、正社員になることはできませんでした。
まとめると、在宅介護をしながら正社員で働くことができない人は
- ・協力者がいない
- ・毎月の介護サービス上限額をオーバーして利用できないお金に余裕がない人
逆に在宅介護をしながら正社員で働くことができる人は
- ・協力者が3人以上いる人
- ・毎月の介護サービス上限額をオーバーして利用できないお金に余裕がある人
といえるでしょう。
私の場合、在宅ワークを中心に働きSNSやブログを更新し、まずまず反響を得ていました。
6年間交際中の彼女が「ライターやってみたら?あんたぐらいいの年齢で親以外の介護をしてる人なかなかいないでしょ」とアドバイスをくれたのがきっかけでライター活動をスタート。
まだまだではありますが、徐々に仕事をもらえ、今後はコンサルタント、講演、本出版など「若中年介護者の何か役に立てれば」と野望をもっています。
協力者がおらず金銭的にギリギリ、でも「この人をみたい」という人も少なくないと思います。
「正社員で働けずブランク期間が長くなるので自分で仕事や仕事のやり方をみつける」覚悟はしておいて損はないと思います。
1人でも多くの介護者やこれから介護する方々の参考になればと思います。